2016年7月15日金曜日

ヤァー

和太鼓協奏曲をやった時の話。

和太鼓、音程の無い打楽器ですね。
舞台奥に設置された大きな大きな和太鼓、
和太鼓奏者は客席に背を向けて叩いておられました。
勿論、オーケストラや指揮者にも背を向けて。

さて。
※カデンツの説明がいらない方は次の段落へ進む。
協奏曲には大概カデンツというものがありまして、
これはオーケストラの伴奏が無く、
1人で自身の腕前を思いっきり披露する時間、
クラシックの作曲家はカデンツを書いた人も居ますし、
昔は、現在のジャズのソロのように
ソリストが即興で演奏したり、自身が作曲したりしていたもの。
このカデンツの演奏中、オーケストラが必要無いので、
演奏会では舞台の上でカデンツの終わりをじっと待ち、
その後また一緒に演奏を始めるのですが、
リハーサルでは、カデンツは演奏されない事が殆どなのです。
ソリストが1人で練習出来るので合わせる必要が無いですよね、
なので、ゲネプロ(本番前のホールリハ)からか、
もしくは本番のみでしか、
オーケストラメンバーが聴く機会もありません。
カデンツがいつ終わるか、というのは大体わかるもの、
また、ソリストと指揮者は打ち合わせをしていますし、
リハーサルでカデンツの終わりの方だけ演奏して貰えるので、
てんでわからない、という事はないのです。
もうそろそろ、と思ったら指揮者が「そろそろ」な空気を醸し、
せーの!で合奏に戻る、というわけ。

この和太鼓協奏曲のカデンツ、
勿論リハーサル時に
「終わりの方はドンドコドコドコ(叩きながら)こんな感じで、
 ここで最後にドドン、、でオーケストラ入って下さい」
と、指揮者含めてオーケストラは説明を受けていました。
こういう時、音程の無い楽器で聞き分けるのは難しい。
こんな時に限ってプライドの高すぎる指揮者、
「大丈夫です皆さん、僕打ち合わせしてますし、
 カデンツの終わりの方で合図して、ちゃんと振りますから」
もう既に嫌な予感しかしない。

本番。

和太鼓のカデンツが始まる。
大体○分くらいです、とも聞いていたので
オーケストラはそれぞれの体内時計でチックタック。
リハーサルで聴いたのとは違う感じの演奏から
ドドンっと鳴る、まだだな〜と思っていたら、
急に指揮者が動き始める!
オーケストラは思った、違う!今じゃない!
指揮者は止まらない、
両手を振り上げせーのっ!ヤァー!!
と両手を振り下ろす・・・も、
和太鼓のカデンツは続く、静寂のオーケストラ。

舞台の上は指揮者以外全員プロの奏者達、
チラッと聴いたカデンツくらいすぐ覚えられる、
さっき聴いたそのカデンツの終わりと違っていたから
当然誰も指揮者を信用せず音も出さず、
むしろ誰も楽器さえ構えない。

ダチョウ倶○部さんのご挨拶のように
ヤァーと笑顔で振り下ろされた両手が
和太鼓が鳴り響き、微動だにしないオーケストラの前で
ゆっくりと下がっていく・・・。
そう、プライドの高すぎる指揮者、
「目の前に虫飛んできたからチョップしただけ〜」
みたいに、変わらない笑顔のままスーッと。。。

あまりに急な、
「絶対に笑ってはいけないinオーケストラ」のスタート。
オーケストラ、我々が鍛えなければいけないものは
腕、実力、室内楽力、ではなく、
笑わないメンタルと強い腹筋かもしれない。

ちなみに本当のカデンツの終わり近くで
もぞもぞと楽器を構えるオーケストラを見ながら
自信無さげに振り始めた指揮者。
オーケストラは思う、「そう、そこだよ。」
笑いも収まり、ため息交じりのオーケストラ。



演奏中はちゃんと自分を信じていないと、
こういう時、指揮者が振ったからって音を出したら
痛い目をみるのは奏者の方なのです。
あのヒト、音出さないからねー。

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