和太鼓協奏曲をやった時の話。
和太鼓、音程の無い打楽器ですね。
舞台奥に設置された大きな大きな和太鼓、
和太鼓奏者は客席に背を向けて叩いておられました。
勿論、オーケストラや指揮者にも背を向けて。
さて。
※カデンツの説明がいらない方は次の段落へ進む。
協奏曲には大概カデンツというものがありまして、
これはオーケストラの伴奏が無く、
1人で自身の腕前を思いっきり披露する時間、
クラシックの作曲家はカデンツを書いた人も居ますし、
昔は、現在のジャズのソロのように
ソリストが即興で演奏したり、自身が作曲したりしていたもの。
このカデンツの演奏中、オーケストラが必要無いので、
演奏会では舞台の上でカデンツの終わりをじっと待ち、
その後また一緒に演奏を始めるのですが、
リハーサルでは、カデンツは演奏されない事が殆どなのです。
ソリストが1人で練習出来るので合わせる必要が無いですよね、
なので、ゲネプロ(本番前のホールリハ)からか、
もしくは本番のみでしか、
オーケストラメンバーが聴く機会もありません。
カデンツがいつ終わるか、というのは大体わかるもの、
また、ソリストと指揮者は打ち合わせをしていますし、
リハーサルでカデンツの終わりの方だけ演奏して貰えるので、
てんでわからない、という事はないのです。
もうそろそろ、と思ったら指揮者が「そろそろ」な空気を醸し、
せーの!で合奏に戻る、というわけ。
この和太鼓協奏曲のカデンツ、
勿論リハーサル時に
「終わりの方はドンドコドコドコ(叩きながら)こんな感じで、
ここで最後にドドン、、でオーケストラ入って下さい」
と、指揮者含めてオーケストラは説明を受けていました。
こういう時、音程の無い楽器で聞き分けるのは難しい。
こんな時に限ってプライドの高すぎる指揮者、
「大丈夫です皆さん、僕打ち合わせしてますし、
カデンツの終わりの方で合図して、ちゃんと振りますから」
もう既に嫌な予感しかしない。
本番。
和太鼓のカデンツが始まる。
大体○分くらいです、とも聞いていたので
オーケストラはそれぞれの体内時計でチックタック。
リハーサルで聴いたのとは違う感じの演奏から
ドドンっと鳴る、まだだな〜と思っていたら、
急に指揮者が動き始める!
オーケストラは思った、違う!今じゃない!
指揮者は止まらない、
両手を振り上げせーのっ!ヤァー!!
と両手を振り下ろす・・・も、
和太鼓のカデンツは続く、静寂のオーケストラ。
舞台の上は指揮者以外全員プロの奏者達、
チラッと聴いたカデンツくらいすぐ覚えられる、
さっき聴いたそのカデンツの終わりと違っていたから
当然誰も指揮者を信用せず音も出さず、
むしろ誰も楽器さえ構えない。
ダチョウ倶○部さんのご挨拶のように
ヤァーと笑顔で振り下ろされた両手が
和太鼓が鳴り響き、微動だにしないオーケストラの前で
ゆっくりと下がっていく・・・。
そう、プライドの高すぎる指揮者、
「目の前に虫飛んできたからチョップしただけ〜」
みたいに、変わらない笑顔のままスーッと。。。
あまりに急な、
「絶対に笑ってはいけないinオーケストラ」のスタート。
オーケストラ、我々が鍛えなければいけないものは
腕、実力、室内楽力、ではなく、
笑わないメンタルと強い腹筋かもしれない。
ちなみに本当のカデンツの終わり近くで
もぞもぞと楽器を構えるオーケストラを見ながら
自信無さげに振り始めた指揮者。
オーケストラは思う、「そう、そこだよ。」
笑いも収まり、ため息交じりのオーケストラ。
演奏中はちゃんと自分を信じていないと、
こういう時、指揮者が振ったからって音を出したら
痛い目をみるのは奏者の方なのです。
あのヒト、音出さないからねー。
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